ビジネスと人権コンプライアンスの基礎知識:企業価値を高める6つのプロセスと実践方法

「ビジネスと人権への取り組みは必要だとわかっているけれど、具体的に何から始めればいいのだろう?」
「海外取引先からの要請に応えられるコンプライアンス体制を早急に整えたいが、どのように進めていけばよいのか?」
そう悩む法務・コンプライアンス部門のマネージャーの方も多いのではないでしょうか。
実は、ビジネスと人権の実践には、「人権方針の策定」「事業リスクによる人権侵害リスクの特定・評価」「人権侵害リスクの防止・軽減」「取組の実効性の評価」「取り組みに関する説明、情報開示」「救済メカニズムの構築」という6つのプロセスが提示されています。
これらを一連のものとして継続的に実施していくことで、人権尊重を図ることが期待されています
この記事では、ビジネスと人権の成り立ちから、具体的な実施プロセスまで、実務担当者の方々に役立つ情報を解説していきます。
「ビジネスと人権」とコンプライアンス

近年、企業活動におけるビジネスと人権への取り組みは、事業継続の必須要件となっています。
グローバル市場での競争力維持、投資家からの評価向上、そして持続可能な事業運営において、人権尊重の姿勢は不可欠な要素となっています。
特に、EUや米国における規制の強化により、日本企業においても人権対策の必須課題となっています。
「ビジネスと人権に関する指導原則」と国際的な動向
近年のグローバル化した経済環境で、企業が自社の利益のみを考え、倫理観やコーポレート・ガバナンス、コンプライアンス、サプライチェーン上の人権を考慮にいれた経済活動を行わない事が多発したため、多くの問題が国際的に生じることが問題となってきました。
そうした中で、2011年に国連において「ビジネスと人権に関する指導原則」が支持され、各国で国別行動計画(NAP)の策定が推奨されるようになりました。欧米諸国を中心に多くの国でNAPが策定されています。
またEUではサプライチェーンにおける人権対策である人権デュー・ディリジェンスも法制化されており、多くの国で人権への負の影響を特定・防止・軽減することや救済するかについての継続的なプロセスをとっていくことが求められています。
日本でも2020年にNAPが策定され、2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されました。こうした流れから、企業は自社内の労働者の人権を守ることはもとより、製品やサービスを生むプロセスのすべて、お客や株主などのすべてのステークホルダーに対する人権尊重を考えた経営を求められていることがわかります。
ビジネスと人権で企業に求められる人権尊重とは
国連が策定した指導原則では、人権を保護する国家の義務、人権を尊重する企業の責任、救済へのアクセスの3つの柱からなっています。ここでポイントになるのは、人権を守る義務は国家にあるとしつつ、人権を尊重する責任が企業にある、とされていることです。
日本のNAPには、企業活動における人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報共有を行うこと、企業活動で人権侵害を防止するための人権デュー・ディリジェンスを導入することへの期待が表明されています。
このように企業における対策としては、自社の事業活動による人権への負の影響を防止・軽減することから始まりますが、その際直接的な自社内への影響だけでなく、取引関係を通じた影響も見ていくことが求められているのです。
人権リスクとコンプライアンス
このように人権尊重を考えるコンプライアンスは、単に日本国内の法令遵守にとどまらず、国際標準の広義のコンプライアンスとして捉える必要があります。
法務省によってリストアップされた日本での起業活動における人権リスクは全部で26に及びます。注目すべきなのは、従来企業が対処すべき人権問題としてきたハラスメント、部落差別、消費者の権利などの自社従業員や顧客との間の問題に加えて、原材料の生産や開発、製品・サービスの使用から廃棄までのサプライチェーン全体までの人権尊重が求められているということです。
例として、原材料の調達先で児童労働が行われている、製品の生産において環境汚染を引き起こし地域住民の健康被害が起きた、広告の表現に消費者から見た人権侵害がされている、などがあります。もし児童労働を行っている原材料を仕入れた場合、その事態に気づかないことが問題ですし、もし仕入れ続けた場合はその人権侵害を助長したと見なされる可能性があります。その結果SNSでの炎上や製品の不買運動が起きたり、得意先から取引停止されるということも起こりかねません。
そのため実効性のある人権コンプライアンス体制の構築には、経営層のコミットメント、専門部署の設置、社内教育の充実、モニタリング体制の整備など、包括的なアプローチが必要です。
企業価値を高める6つのプロセス早わかり

企業価値の向上につながる人権コンプライアンスであるビジネスと人権の実践には、体系的なアプローチが必要です。
以下の6つのプロセスを一連の者として継続的に実行することで、効果的な人権尊重の取り組みを実現できることが期待されています。
プロセス1:人権方針の策定
まず最初に、企業が人権に取り組む方針を策定して、自社ウェブサイトなどに公表します。それは人権侵害を起こさない企業組織を作るというトップの姿勢を示すもので、とても重要なものです。
人権方針を策定する際に大切なのは、専門家の協力を得ること、そして社長・役員がコミットして策定することです。
更に従業員、取引先、顧客などの関係者に対して、この人権方針の理解・支持を期待を明記することや、それらの関係者に周知されていること、この人権方針が企業の事業方針や調達方針などに反映されていることも求められています。
プロセス2:事業リスクによる人権侵害リスクの特定・評価
取り組みにあたって、まず手掛けなければならないのが自社の実態把握です。具体的には自社が関与している可能性のある負の影響を特定し、その被害の深刻度や起こりやすさなどを評価して、どの負の影響から対応していくのかの順位を決めていくという流れになります。
負の影響に関しては、発生する可能性が高く、起きた場合の被害が深刻な事業の領域を特定していきます。特定に際しては、まず人権侵害リスクの起こりそうな事業領域を特定し、人権侵害リスクの起きる状況や原因を確認し、自社の事業との関係を確認していきます。
深刻度を見るには、被害者にどれほど甚大な被害が出るのか、どのくらいの範囲の人が被害を受けるか、その人権侵害を自社がどの程度救済可能か、などから確認していきます。
また被害には、自社がまさに引き起こすもの、助長するもの、関連しているもの、の3つの形態があるため、きちんと情報を収集して取り組むことが大切です。
プロセス3:人権侵害リスクの防止・軽減
特定されたリスクに対して、具体的な予防・軽減措置を実施します。
ここで、前のプロセスで自社が引き起こしている被害、助長している被害については防止・軽減措置を取らなくてはなりません。
関連している被害についても、直接実施することはできなくても、当該企業に働きかけるなどして防止・軽減措置を進めていく必要があります。
プロセス4:取り組みの実効性の評価
このプロセスでは、プロセス2とプロセス3で実施してきたことの効果を、継続的にモニタリングして、評価していきます。そのために大切なことは、社内、社外から広く情報を集めることです。そして今後の取り組みを検討し、見直していきます。
情報を収集するにあたっては、従業員やサプライヤーへのアンケート・ヒアリングだけでなく、自社やサプライヤーの工場などを訪問したり、第三者による監査なども重要です。また苦情処理メカニズムに挙げられた相談などからの情報収集も有効に活用していく必要があります。
プロセス5:取り組みに関する説明、情報開示
ここまで進めてきた人権尊重の取り組みについて、適切な情報開示を行います。
特に被害を訴えたステークホルダーに対してだけでなく、その他のステークホルダーに対しても情報提供を適切に行うことが求められています。
開示内容には、人権方針、実施体制、具体的な取り組み事例、課題と対応状況などを含みます。
このプロセス2から5までの流れが人権デュー・ディリジェンスと呼ばれるプロセスですが、この実施状況や救済メカニズムの運用状況など、具体的な成果や課題をきちんと情報開示することが重要です。
また、ステークホルダーとの対話を通じて、取り組みの改善につなげます。
情報開示にあたっては、自社ウェブサイト、年次報告書、統合報告書、サステナビリティレポート、人権報告書などの媒体を用いる方法があります。
プロセス6:救済メカニズムの構築
自社の事業活動が人権への負の影響を引き起こしたり、助長していることが分かった場合、企業は被害を受けている人を速やかに救済しなければなりません。
救済の具体例としては、謝罪、原状回復、金銭的・非金銭的補償、再発防止プロセスの構築・表明などがあります。
こうした対応をしていくために、苦情処理メカニズム(苦情・相談・通報窓口など)を準備することが必要です。そしてその苦情処理メカニズムでは、利用者が信頼して利用できるものであり、被害の深刻化を防止することができるものであることが求められています。
救済メカニズムの実効性を確保するため、利用者の匿名性保護、迅速な対応体制、フォローアップの仕組みなどを整備します。特に重要なのは、救済手続きの透明性と公平性の確保です。
ビジネスと人権 コンプライアンス体制の構築と運用

効果的なコンプライアンス体制の構築と運用には、組織全体での継続的な取り組みが不可欠です。
実効性のある体制づくりに向けて、以下の要素を重点的に整備していく必要があります。
グローバルサプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンス
グローバルサプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンスでは、取引先の選定から継続的なモニタリングまで、包括的なアプローチが求められます。
実務上重要なのは、リスク評価の基準設定、モニタリング手法の確立、是正措置の実施プロセスの明確化です。
特に、一次取引先を超えた二次、三次取引先への対応方針の策定が課題となっています。
ステークホルダーとの効果的なエンゲージメント
ステークホルダーとの対話を通じて、人権課題への理解を深め、取り組みの改善につなげることが重要です。
具体的には、定期的な対話の機会設定、透明性の高い情報開示、フィードバックの反映プロセスの確立などが含まれます。
特に、NPO/NGOとの建設的な対話は、課題の早期発見と効果的な解決に寄与します。
実効性のあるモニタリングと評価の仕組み
人権コンプライアンスの実効性を確保するため、継続的なモニタリングと評価の仕組みを整備します。
これには、定量的・定性的な評価指標の設定、定期的なレビュー会議の実施、外部評価の活用などが含まれます。
評価結果は、経営層への報告と次年度の計画策定に反映させ、PDCAサイクルを確立することが重要です。
研修用映像教材の依頼をするなら
研修用映像教材を依頼する際のポイント
コンプライアンス研修は、企業にとって重要な課題です。
これらの複雑な概念を従業員に効果的に伝えるためには、研修用映像教材の活用が有効です。
ここでは、研修用映像教材を依頼する際のポイントについて解説します。
明確な目的と対象の設定
- 新入社員向けの基礎知識か、管理職向けの実践的内容かを明確化
実際の事例やケーススタディの活用
- 具体的な事例を通じて学ぶことで理解を深める
分かりやすい視覚資料の使用
- 複雑な概念を図表やアニメーションで視覚化
定期的な更新を前提とした柔軟な教材設計
- 人権リスクを取り巻く環境の変化に対応できるように
多様性と包括性への配慮
- グローバルな視点で、特定の文化や価値観に偏らない内容を心がける
これらのポイントを押さえて研修用映像教材を依頼することで、効果的かつ持続可能な人権リスク管理の教育プログラムを構築することができるでしょう。
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